OmniFactory


7月11日〜15日にイギリス・ノッティンガム大学のOmniFactoryという研究所に行って来た。3泊5日のかなり忙しい旅だったが、サッカーWカップのイングランド対ノルウェー戦をイギリスで見られたり(大学の中のホテルに泊まったので、オープンスペースがあり軽く盛り上がっていた)、街中ではなく田舎のパブに連れて行ってもらったりと、そこそこ面白い旅だった。
ことの発端は、この研究所の所長のProf.Svetan Rachevという人が数年前にデジタル・トリプレット(D3)について知りたいと研究室にやってきて割と意気投合した。彼はOmniFactoryというデジタル・ツイン(D2)のReconfigurable生産システムを持っていて、我々の持っている人工物工学研究センターのラーニング・ファクトリーとは全然規模が違うものだったので、興味を持った。そうこうしているうちに、共同研究することになり、今回めでたく第1回の会合ということで、一緒に研究している三竹祐矢特任講師と2人でOmniFactoryを見に行ったという訳である。
OmniFactoryというのは、図の一番下の写真にあるように(この写真で全体の2/3ぐらい)、産業用ロボットとAGVから構成されるReconfigurable生産システムで、まさに、1990年代に日本発の国際共同研究IMS(Intelligent Manufacturing Systems)プログラムで日本などが提唱していた生産システムである。これが、Industry4.0を経て実用領域に入ったと思うと感無量である。筆者が特に何か貢献したわけではないが。
実用領域と言えば、ここの研究ポリシーは特徴的で興味深かった。ここのHPによると、イギリス政府の産業戦略チャレンジ基金(Industrial Strategy Challenge Fund)から380万ポンド(約8億円)の助成を受けて設立したらしいのだが、イギリスで実施する生産システム研究なので、量産メーカーも大量生産品がある訳でもなく、少量多品種、高付加価値品の一点狙いで、航空機産業(軍需産業を含む)に特化している。そうすると、こういう生産システムの強みを活かせるということであった。具体的には、エアバスやロールスロイスから、例えば、翼の自動組立工程の開発を請け負い、ここで開発して、試運転して、完成したら、その工程一式を依頼元企業に納入する、というビジネスモデルらしい。それゆえ、産業用ロボットはFANUC、Kuka、ABBなどの市販品を、ソフトもSiemensのTeamcenter以下一式というように、徹底的に市販品を使いこなす戦略を取っている。
現場では、航空機の翼の検査やリマニュファクチャリングのデモを見せて貰った。大きなAGVの上に汎用的な架台が載っていて、治具ラックがあって、まずは、ワークに合わせた治具をロボットが把持して、架台にセットする。それから、ワークを架台の上の治具に載せた後に、加工に必要な工具を工具ラックからロボットが取り出し、加工する、という流れであった。我々のラーニング・ファクトリーは、数センチ角のレゴカーだが、こちらは扱うものがでかい。そのために、大きな産業用ロボットや翼1枚が載るような巨大なAGVがあった。
現場も面白かったのだが、興味の中心はソフト開発の方だった。Siemensがやたら宣伝しているDigital Thread、つまり、データを製品概念設計から生産・運用/保守段階までライフサイクル全体で部門や組織を越えて連携・追跡可能にする情報基盤ということらしいが、を活用して工程開発を実践していた。つまり、製品の設計情報ができたら、「CADモデル→生産システムの要求抽出→生産システム設計→制御設計→システム構築→仮想試運転→システム展開」という一連の流れを様々なデジタルツールを駆使してバーチャルで開発する。まさに、図に示すように。この連載にも何回か登場しているマクニカに聞くと、これができるのは日本企業でもほとんどないらしい。
プレゼンではこの一連の流れがウォーターフォールモデルでスムースに流れるような絵だったが、Svetanが言うには、これができるのは欧州でも結構少ないらしい。実際はそんな上手く行くことはなく、各段階で試行錯誤があって、ドクターやポスドクの人力で補っている、ということであった。このノウハウの蓄積がこの研究所の競争力になっているのだと思う。ここでピンと来たのだが、Siemens的な発想は、このDigital Threadに代表されるように、デジタルツール化できるところを追い求めて、その統合化であたかも一連の開発がスムースにできるような宣伝をしている。実際、いろいろできるようになったことも多い。逆に、我々のD3は、Siemensの宣伝文句に載ってこない部分、まさにこの試行錯誤する部分であり、もっと言えばデジタルツールの使いこなしを形式知化したい。こういったツールの存在を前提として。つまり、光と影というか、表と裏というか、極めて相補的な関係になっている。Digital Threadが高度化すればするほど、D3の必要性が高まるような気がして、D3の存在意義を再確認した旅であった。
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